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大阪高等裁判所 昭和31年(ネ)1519号 判決 1959年4月15日

(第一三〇三号控訴人・第一五一九号被控訴人)[控訴人と称する]宮津税務署長

訴訟代理人 藤井俊彦 外一名

(第一三〇三号被控訴人・第一五一九号控訴人)[被控訴人と称する]北山信治

主文

原判決を左の通り変更する。

控訴人が昭和二十八年七月三日被控訴人の昭和二十七年度分所得金額を金三十六万八千七百五十五円、同税額を金六万八千九百円とした再調査決定(但し大阪国税局長の昭和三十年三月七日附審査決定により所得金額二十二万九千円、同税額二万四千五百円と変更)の所得金額金二十二万六千八百三十九円及びこれによつて算定される税額を超える部分はこれを取消す。

被控訴人のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審を通じてこれを十分しその一を被控訴人の負担とし、その余を控訴人の負担とする。

事実

控訴人は控訴につき、「原判決中控訴人敗訴の部分を取消す、被控訴人の請求を棄却する、訴訟費用は被控訴人の負担とする。」との判決、附帯控訴につき「附帯控訴棄却」の判決を求め、被控訴人は、控訴につき、「本件控訴を棄却する。」との判決、附帯控訴につき「原判決中被控訴人敗訴の部分を取消す、被控訴人の昭和二十七年度の所得金額を金二十二万四千四百三十九円とする、訴訟費用は第一、二審共控訴人の負担とする。」との判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述、証拠の提出・認否援用<省略>

理由

当裁判所は、被控訴人主張の金二千四百円の修繕費及び金二千百三十一円の通信費に関し、左の通り判断する(従つて原判決理由中のこの点に抵触する部分は、その限度において変更されたことになる)ほか、原判決の理由をここに引用する。

(一)  被控訴人が昭和二十七年度中にその主張の額の修繕費を支出したこと、被控訴人が同修繕費のうち、その営業用の商品置場として使用している本件離屋の屋根瓦葺替えのための費用中金二千四百円を営業上の必要経費として算入したところ、控訴人においてこれを必要経費として算入することを否認したこと、右屋根瓦葺替えを必要とするに至つた事情は本件当事者間に争がない。被控訴人は右金二千四百円は、所得税法にいわゆる事業所得の計算上必要な経費に算入すべきものにあたり、控訴人がこれを否認するのは違法である、と主張するけれども同法にいわゆる事業所得の計算上必要な経費に算入すべき修繕費とは、事業用固定資産の損耗額を、減価償却において予見した額に至るまで回復するのに必要とする経費であり、かつその損耗は、当該企業の通常の経営過程において、その収益を得るために発生したものに限られる、と解すべきところ(所得税法第一〇条の二、同第一〇条の三参照。)被控訴人主張の屋根の破損の修繕費は、なんら被控訴人の企業の通常の経営過程においてその収益を得るために発生した固定資産の損耗の修繕費と言いえないことは、被控訴人の主張自体に徴して明かであるから、控訴人において右金二千四百円をもつて被控訴人の事業所得の計算上必要な経費に算入すべきことを否認したのは、何等違法ではない、といわねばならない。

(二)  次に被控訴人主張の金二千百三十一円の通信費について考える。被控訴人が昭和二十七年度中に総額金一万五千二百七十三円の通信費(内電話料は金一万二千二百三円)を支出したこと、被控訴人がその全額を事業所得計算上必要な経費として算入したのに対し、控訴人が内約十四%に相当する金二千百三十一円を被控訴人の家事用の電話使用料とみなして、右必要費であることを否認したことは当事者間に争がなく、原審証人北山太一の供述によると、被控訴人方には、電話は一本よりないことを肯認することができる。かような事情にある本件においては、他に反証がない限り、被控訴人が、右電話を家事用にも、被控訴人の従来の徴税経験上相当と主張する通信費総額の十四、五パーセント程度使用するものと推認するのを一応妥当と思料するけれども、前示証人及び原審ならびに当審における被控訴人本人の各供述に弁論の全趣旨を綜合すると、被控訴人はきわめてきちようめんな性格の人で、営業と家事とをはつきり区別して、電話を家事用には全然使用していないことが認められるから、控訴人が被控訴人主張の右金二千百三十一円を、被控訴人の事業所得の計算上必要な経費に算入することを否認したことは違法であるといわねばならない。

そうすると本件控訴及び附帯控訴はいずれも右の範囲内に限り相当であるから、民事訴訟法第三八五条、第三八六条に従つて主文第二項の通り変更し、被控訴人のその余の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき同法第九十六条第九十二条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 藤城虎雄 亀井左取 坂口公男)

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